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東京地方裁判所 昭和30年(レ)405号 判決

控訴人 株式会社日本殖産破産管財人 高野弦雄 外四名

被控訴人 勅使原清三郎 外一名

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人らは控訴人に対し、各自、金六万円及びこれに対する昭和三十年八月十八日から支払済にいたるまで百円につき一日三十銭の割合による金員を支払うべし。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し、連帯して、金六万円及びこれに対する昭和二十八年二月一日から支払済にいたるまで百円につき一日三十銭の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述の提出、認否は、控訴人代理人において、「仮に株式会社日本殖産と桜井彦市との間の本件消費貸借契約上の割賦金債務の履行を昭和二十八年一月三十一日怠つたことにより元金残額の全部について履行期が到来したとする控訴人の主張が認められないときは、右契約は期限の定めがないものであつたと主張する。控訴人は被控訴人らに対し本訴状が送達されたことによつて元金六万円の支払いを催告したものであるから、被控訴人らは控訴人に対し、右金額及びこれに対する本訴状が被控訴人らに送達された日の翌日である昭和三十年八月十八日から支払済にいたるまで百円につき一日三十銭の割合による遅延損害金を支払う義務がある。被控訴人らが甲第二、第三号証の認否における自白を撤回することに同意しない。と述べ被控訴人らにおいて、「本件消費貸借契約は期限の定めがなかつた、との控訴人の予備的主張は争うと述べたほかは、原審判決の事実摘示のとおりである。

理由

一、まず各書証の成立の真否について判断する。

甲第一号証は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める。

甲第二、第三号証中被控訴人ら作成名義の部分について。

被控訴人らは原審において甲第二、第三号証中に顕出された被控訴人らの印影が被控訴人らの印顆を用いてなされた事実を認めながら、当審においてこれを否認した。控訴人は右自白の撤回に同意しないが、このような場合は、両号証が真正に成立したものであるかどうかという主たる争点に対する間接事実の自白に属するから、その撤回は自由である。然しながら、被控訴人らは、原審において、一度は、右各印影が被控訴人らの印顆を用いて顕出されたものであると認めたのであるし、また当裁判所のみるところによると右各印影と、甲第四、第五号証(これについては後に述べる)に顕われた被控訴人らの印影とは異なるものであるとは認められない。これらによると、甲第二、第三号証中に顕われた被控訴人らの印影は、被控訴人らの印顆によるものであると認められ、したがつて右甲号各証中被控訴人ら作成名義の部分は、いずれも真正に成立したものと認めざるを得ない。

甲第二、第三号証中桜井彦市作成名義の部分について。

右各部分は同号証中被控訴人ら作成名義の部分がいずれも真正に成立したものと認められること並びに弁論の趣旨により、いずれも真正に成立したものと認める。

甲第四、第五号証がいずれも真正に成立したことについては、当事者間に争いがない。被控訴人らは右各書面にあらわれている被控訴人各自名義の印影は被控訴人らの印顆によつて顕出されたものではないと主張するけれども、印鑑証明書にあらわれた印影は特段の事情がないかぎりその名義人自身の印顆によつて顕出されたものであると認めるのが相当であつて、特段の事情が存することについては何らの主張も立証もない本件においては、右被控訴人らの印影はいずれも被控訴人らの印顆を用いて顕出されたものであると認めざるを得ない。

二、つぎに控訴人主張の請求原因事実について判断する。

以上甲各号証の記載に弁論の全趣旨を考え合せると、桜井彦市は昭和二十七年十一月下旬頃、株式会社日本殖産から金二十万円を、期限後の損害金を百円につき一日五十銭と定めて借受け、被控訴人らはいずれも同日桜井彦市の株式会社日本殖産に対する右消費貸借契約による債務を連帯保証した事実が認められる。

控訴人は更に右契約において、元金は昭和二十七年十一月二十五日から同二十八年一月三十日まで、毎日二千円宛分割弁済すること割賦金の支払いを一回でも怠つたときは直ちに期限の利益を失い残額を一時に支払うことを約定したと主張するが、かかる事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、割賦金の支払いを怠つたことにより元金残額の全部について履行期が到来したとする控訴人の主張事実はこれを認めることができない。

然しながら、被控訴人らは、履行期がいつであるかについて、自ら何らの主張も立証もしていないから、結局元金の返還期の定めはなかつたものと考えざるを得ない。

株式会社日本殖産が、昭和二十九年六月十六日午前十時東京地方裁判所において破産宣告を受け、控訴人がその破産管財人に選任されたことは、当裁判所に顕著な事実があり、控訴人よりも被控訴人らに対する本訴状が昭和三十年八月十七日被控訴人らに送達されたことは記録上明らかである。すなわち、元金残額中六万円について、同日返還の催告がなされたわけであつて、右催告時に履行が到来したこととなる。

なお、控訴人は被控訴人らに対し、前示認定の約定により遅延損害金として百円につき一日三十銭の割合による金員の支払いを請求しているが、株式会社日本殖産が貸金業等を営むことを目的とする株式会社であることは、当事者間に争いがないから、株式会社日本殖産が桜井彦市との間に締結した本件消費借契約は、被控訴人らとの間に締結した本件連帯保証契約とともに、商行為に属するから、利息制限法第五条の適用はないし、この程度の損害金は、特段の事情がない限り未だ公序良俗に反するものとは認め難く、特別の事情が存することについては何らの主張も立証もない。

被控訴人らは連帯保証人であつて分別の利益を有しないから、それぞれ控訴人に対し、金六万円及びこれに対する、本訴状が被控訴人らに送達された日の翌日である昭和三十年八月十八日から支払済にいたるまで約定の範囲内で百円につき一日三十銭の割合による遅延損害金を支払う義務があるが控訴人の本訴請求のうち、履行期以前の遅延損害金の支払いを求める部分は、失当である。

よつて控訴人の本訴請求は、主文記載の限度において理由があるが、その余は理由がないものとして棄却すべく、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であるから民事訴訟法第三百八十六条を適用して主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用し、仮執行の宣言は之を付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 石橋三二 新村義広 吉田武夫)

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